彼女の素顔

INTERVIEW

Vol.3

Sara Matsui

世界を知る15歳が、KYOJO CUPで踏み出すフォーミュラへの第一歩
“速さ”で証明する、松井沙麗の新たな挑戦

Sara Matsui

5歳で始まったレーシングキャリア
「将来、レーサーを仕事にしたい」と思った日




WILLIAMS DRIVER ACADEMYのメンバーとして、世界を目指す15歳がいる。松井沙麗選手だ。5歳でカートを始め、すでにレースキャリアは10年。ヨーロッパで経験を積んできた彼女が、2026年はKYOJO CUPでフォーミュラへの第一歩を踏み出す。

原点はシンプルだった。乗り始めの頃は、純粋に「カートが楽しい」という気持ちでステアリングを握っていたという。しかし、JAF全日本カート選手権のジュニアカテゴリーに参戦するようになると、その気持ちは少しずつ変わっていった。

「最初の2、3年は、本当に自分が楽しくて乗っているという感じでした。でも、JAFの全日本選手権、ジュニアカート選手権のような大きなレースに出るようになってから、プロドライバーになって、将来有名になって、それを仕事にしたいと思うようになりました」

レーシングドライバーとして生きていきたい。そう思うようになった原動力は、今も変わらない。

「自分は本当に運転することが大好きなんです。遊園地に行っても、並んででもゴーカートに乗るくらい好きなので。それが一番の原動力です」

遊園地のゴーカートでさえ、松井選手にとっては“乗りたいもの”。その言葉からは、速さへの野心以前に、まずクルマを操ることそのものへの強い愛情が感じられる。


ヨーロッパで身につけたバトルの強さ
異国での経験が、人としてもドライバーとしても自分を鍛えた




松井選手はこれまで、ヨーロッパを舞台にカートで経験を重ねてきた。世界のレース環境に身を置いたことで、ドライバーとして最も身についたものは何だったのか。

「カートに関して言えば、ヨーロッパ特有の路面での走り方だったり、レース内容で言えばバトルの強さです。そこが一番身についたかなと思います。大きなクラッシュも経験しましたし、日本に比べて接触もはるかに多いので、当たっても負けない強さは身についたと思います」

得たものは、ドライビングスキルだけではない。

「人としてもすごく成長できた2年だったと思います。パスポートをなくしたり、交通事故に遭ったりもしました。両親や家族がいない異国の地でそういうことを経験して、英語も含めて、日本にいた時より強くなれたと思います」

海外で戦うことは、華やかな経験ばかりではない。ビザの関係で現地の選手ほど練習日数を確保できず、ほとんどぶっつけ本番でレースに臨んだこともあったという。思うような結果が出ず、悔しい思いをしたこともある。それでも、その時間が松井選手のメンタルを鍛えた。

「落ち込むことはあります。でも、切り替えは早くなりました」

世界の厳しさに触れ、そこで得たたくましさ。それは、2026年にフォーミュラへ挑む松井選手にとって、大きな武器になるはずだ。


小学生の頃から見ていたKYOJO CUP
「いつかここで走って、表彰台の真ん中に立ちたい」




松井選手にとって、KYOJO CUPは突然現れた新しい舞台ではなかった。小学生の頃から、その存在を知り、見てきたシリーズだったという。

「KYOJO CUPは自分が小学生の頃からありました。世界を探しても、本当に数少ない女性ドライバー限定のレースというところに、小学生ながら魅力を感じていました。小さい頃から見ていましたし、自分もいつかここで走って、表彰台の真ん中に立ちたいと思っていました」

2025年末のトライアウトで、松井選手は初めて本格的にフォーミュラマシンでコースを走った。結果は2番手。トップタイムを記録したのは、F1アカデミー参戦経験を持つジョアンヌ・チコンテ選手だった。

「とりあえず楽しかったという気持ちが一番大きかったです。でも、タイムは2番手で終わったので、悔しい気持ちと楽しかった気持ちが半分半分でした。何にせよ本当にいい経験になりましたし、今年のKYOJO CUPでシリーズチャンピオンを取りたいという気持ちがより強くなりました」

ただし、松井選手はその結果に過信しているわけではない。ジョアンヌ選手については「憧れのレースで戦ってきたドライバー」であり、同時に「ライバルになるので負けたくない」と語る。

「フォーミュラの経験は自分より何倍もあるのは事実なので、いろいろ学べたらいいなと思っていました。正直、あまり自信はなかったですね」

憧れと闘争心。学ぶ姿勢と負けたくない気持ち。その両方を持っているところに、松井選手の強さがある。


目標はシリーズチャンピオン
それでも、フォーミュラ1年目に一番大切にしたいこと




松井選手にとって、2026年はカートからフォーミュラへ本格的にステップアップする記念すべきシーズンだ。

自身の現在地を「富士山で言えば5合目くらい」と表現する。将来の夢はまだ遠い。しかし、確実にひとつずつ階段を上っているという実感がある。

「今年はKYOJO CUPに参戦することで、カテゴリー的にはF4に上がることになると思います。まだまだ将来の夢への道は遠いですけど、一つずつ階段を上ってきているので、富士山で言えば5合目くらいですかね」

もちろん、レースに出る以上、目指すものは明確だ。

「優勝、シリーズチャンピオンというのは、何があっても変わらない目標です」

一方で、松井選手は自分がルーキーであることも冷静に受け止めている。周囲には、前年チャンピオンの下野璃央選手、経験豊富な三浦 愛選手、F1アカデミーを経験したジョアンヌ・チコンテ選手ら、強力なライバルがいる。

「フォーミュラ1年目なので、そういう方々からいろいろ勉強できたらなと思っています。今後の自分のレース人生に何かしらつなげられたら。それはリザルトよりも一番大切に思っています」

勝ちたい。でも、学びたい。フォーミュラでの1年目を、結果だけではなく、自分の未来につながる時間にしたい。松井選手の2026年は、そんな挑戦のシーズンになる。


KONDO RACINGとともに戦う一年
「松井沙麗はフォーミュラに乗っても速い」と証明したい




2026年、松井選手はKONDO RACINGからKYOJO CUPに参戦する。

SUPER GT、スーパーフォーミュラでも知られる名門チームからフォーミュラ1年目を戦うことは、松井選手にとって大きな意味を持つ。

「KONDO RACINGさんから出るかもよ、と聞いた時は本当に『えっ』と思いました。自分が憧れているSUPER GT、スーパーフォーミュラに参戦しているチームで、フォーミュラ1年目のシーズンを過ごせるのは、自分にとってプラスしかないと思っています」

合同テストで初めてチームと走行を重ねた時も、その印象は強く残った。

「皆さん本当に優しく親切で、自分もこのチームで良かったなと思いました。まだ二日しか一緒にいないのに、そう思えるチームでした。KONDO RACINGさんと一緒に、最終的にはシリーズチャンピオンを取って、笑顔で終われたらと思います」

久しぶりに日本でフルシーズンを戦い、カートからフォーミュラへステップアップする松井選手。新しい環境での一年に、ファンへ見せたいものは何か。

答えは、迷いなく「速さ」だった。

「ヨーロッパで積んできたテクニックやレーススタイルもそうですし、『松井沙麗はフォーミュラに乗っても速いんだ』と思っていただけるようなレースができたらと思います。一番見てほしいのは速さです」

世界を見てきた15歳が、日本のKYOJO CUPでフォーミュラキャリアの第一歩を踏み出す。

憧れていた舞台で、今度は自分が表彰台の真ん中を目指す番だ。