悔しさを、チームと共有した一年
翁長実希選手は、KYOJO CUPを長く牽引してきたドライバーのひとりだ。
KYOJO VITA時代には2022年度シリーズチャンピオンに輝き、2019、2020、2021、2023、2024年度にもランキング2位を獲得。常にトップ争いの中に身を置いてきた。
それでも、フォーミュラ化されたKYOJO CUPに挑むにあたり、彼女は過去の実績に寄りかかることを選ばなかった。2025年シーズンを前に「VITAでチャンピオン経験のある自分を捨てる」という覚悟で、新しいカテゴリーに向き合った。その先にあったのが、速さと手応え、そしてタイトルに届かなかった悔しさだった。
速さはあった。チームの体制も整っていた。チャンピオンを狙えるだけのポテンシャルも十分にあった。だからこそ、タイトルに届かなかった悔しさは大きかった。
「去年はチャンピオン獲得を目指して、チームと一緒に取り組みました。実際に取れるポテンシャルは十分にありましたし、いいチームで走らせてもらって、自分自身も速さを持ち合わせていたと思います。でも、不運があったり、そこから這い上がる力が少し足りなかったりして、悔しいシーズンになりました」
その悔しさは、ひとりで抱えたものではなかった。チームも同じ思いで受け止め、どうすればチャンピオンを獲れるのかを一緒に考えてくれたという。
「チームの皆さんやスポンサーの皆さんが、本当にサポートしてくれました。でもチャンピオンを取れなくて悔しかった。その悔しさをチームと一緒に共有して、じゃあどうやってチャンピオンを取るか、と話し合ってきました」
だからこそ、2026年に向けた思いは強い。
ただし、翁長選手はその強い気持ちを、勢いだけで表現しようとはしていない。
「今年は絶対に取りに行くという強い気持ちはあります。ただ、あまり焦らず、しっかり着実に、冷静に、クレバーに。淡々と取っていくような気持ちでいこうと思っています」
フォーミュラが教えてくれた、メンタルの重要性
2025年、KYOJO CUPはフォーミュラマシンで争われるシリーズとなった。翁長選手自身もFIA-F4に並行して参戦しながら、フォーミュラの特性を学んできた。
その一年を通じて強く感じたのは、フォーミュラというマシンの“ダイレクトさ”だった。
「乗るたびに、フォーミュラの特性に対する理解はどんどん深まっていきました。ただ、フォーミュラはすごくダイレクトなクルマなので、自分自身のメンタルが走りにも反映されるんです。それがフォーミュラの面白いところでもあります」
顔は見えなくても、走りを見れば、その時のドライバーの気持ちが伝わる。焦っているのか、落ち着いているのか、自信を持っているのか。そうした心の動きが、走りにも表れてしまう。
「私自身、すごく強い気持ちはあるんですけど、焦りすぎてミスが誘発されてしまうこともありました。だから本当に落ち着いて、自分には力があるという自信をしっかり持っていかないといけない。そこが学びでした」
そのために、メンタル面でも意識的な取り組みを続けている。
「メンタルトレーニングは、コーチをつけて定期的に行っています。焦って感情が入ってしまうところを、冷静に分析する。今起きていることをどうすれば良くできるのか、感情ではなく思考に変えていくことをすごく意識しています」
強みはファイターであること
翁長選手の強みは何か。本人は迷わず「ファイターなところ」と答える。
「闘争心もありますし、バトルにも自信があります。どんなに後ろからでも追い上げて前に行く。それはすごく私の強みだと思います」
後方から追い上げる強さ。競り合いで前に出る力。苦しい状況でも諦めずに戦う姿勢。それは、翁長選手の走りを印象的なものにしてきた大きな要素だ。
一方で、2026年に向けて意識しているのは「追う立場」だけではない。
「去年は前を走る機会があまり多くありませんでした。今年はそういうシーンになることも想定して、追うだけではなく、後ろから来られても簡単には崩せないところを、走りで見せていきたいです」
KYOJO CUPフォーミュラは2年目を迎え、ライバルたちのレベルも確実に上がっている。新たに加わるドライバーたちも、それぞれに勢いと経歴を持つ。だからこそ、常にトップにいるためには、同じ場所にとどまってはいられない。
「去年ほど簡単にはいかないと思っています。みんなも速くなっていますし、若手のニューカマーも勢いのあるドライバーばかりです。常に“もっともっと”という考え方でいかないと、動かされてしまう。常にトップでいたいからこそ、新しいチャレンジをして、もっといろいろなものを見つけなければいけないと思っています」
沖縄から、挑戦する姿を見せる
翁長選手のモチベーションのひとつは、ライバルの存在だという。新しい選手が現れ、同世代やライバルたちがそれぞれのステップへ進んでいく。その姿を見ると、「負けていられない」と感じる。
「新しい選手が出てきたり、同じライバルの選手がいろいろなステップを踏んでチャレンジしているのを見ると、負けていられないなと思います。もっと自分も上に行きたいです」
そしてもうひとつ、翁長選手の中で大きな意味を持つのが、沖縄出身のドライバーであることだ。
「私は沖縄県出身なので、これから先、沖縄の子たちだったり、レースにチャレンジしたい女性だったり、多くの方々にどういう姿を見せられるかというのは意識しています」
勝つことだけではない。負けた時にどう振る舞うか、どんな勝ち方をするか、どんな負け方をするか。すべてが、自分の姿として誰かに届くかもしれない。
「勝ち方、負け方をしっかり見せたいです。どういう結果になっても、いい姿を見せたい。そのためにやっているところはあるかもしれません」
レースに挑戦したい若い人たちへ、伝えたいことも明確だ。
「自分の“好き”を貫いて、それをしっかり周りに伝えてチャレンジすること。そして、感謝を忘れないこと。チャンスをくれた人たちに感謝を持ち続けていれば、その選手はずっと応援されて、自分の道も開けると思います」
記録だけでなく、記憶に残るドライバーへ
これから、どんなレーシングドライバーになっていきたいのか。翁長選手の答えは、「記憶に残るドライバー」だった。
「リザルトとして1位を取った、チャンピオンを取ったという、記録に残るドライバーもいると思います。でもレースの面白さって、その場面場面でギリギリのバトルがあって、そこで名勝負だったり、すごいシーンが出てくるところだと思うんです。レースは結果だけではなく、そういうシーンの積み重ねだと思っています」
たとえリザルトに残らなくても、「あのヘルメットの柄の選手」「あの何号車の選手」と覚えてもらえるような走りをしたい。誰かの心に残るような走りをしたい。そこに、翁長選手が目指すドライバー像がある。
KYOJO CUPの見どころについても、彼女は「選手を知ってほしい」と語る。
「走りももちろん素晴らしいですが、ヘルメットの中の選手に目を向けていただきたいです。いろいろな選手がいるので、推しを見つけたら、その推しがどういう走りをしているのかを知って、ぜひ走りを見ていただきたいです。絶対ハマると思います」
2025年、翁長選手にとって心に残っているのは、初優勝をチームと分かち合えた瞬間だった。
「勝った時に、ピットウォールで喜んでくださるチームの皆さんの映像を見たんです。それを見た瞬間、すごく嬉しかったんです。この勝利は自分ひとりではなくて、チームで掴んだものなんだと思いました」
悔しさも、喜びも、チームとともに。
2026年、翁長実希選手はそのすべてを力に変え、冷静に、クレバーに、KYOJO CUPの頂点を狙う。