彼女の素顔

INTERVIEW

Vol.7

Aimi Saito

速さは見せた。あとは、勝ち切るための経験値。
もう一度チャンピオンを取り返すための2026年

Aimi Saito

王者としてではなく、挑戦者として向き合ったフォーミュラ初年度




2024年、斎藤愛未選手はKYOJO CUPの主役だった。

VITA-01で争われたそのシーズン、全6戦中5回表彰台に上がり、4勝をマーク。そのうち3戦ではポールポジションを獲得した。まさに、他を寄せつけない強さでシリーズチャンピオンに輝いた一年だった。

しかし、KYOJO CUPがフォーミュラマシンへと移行した2025年、斎藤選手はその肩書きに寄りかかることはなかった。過去のインタビューで彼女は、チャンピオンは「過去の栄光」であり、マシンが変わった以上、また一人の挑戦者として一から追う立場になると語っていた。

そして迎えたフォーミュラ初年度。斎藤選手にとって、それは手応えと課題の両方が残るシーズンになった。

「フォーミュラで初めてのシーズンだったんですけど、速さは見せられたという部分は大きい収穫でした。でも、少し安定しないシーズンになってしまったので、それは今年に向けての課題になったかなと思います」

マシンが変わっても、ドライバーの特性は出る。斎藤選手自身、ターンインでの向きの変え方には課題があると以前から指摘されていたという。それでも、一年を通じてフォーミュラに乗り続けたことで、その課題は少しずつ良い方向へ向かっている。

「もともと第3セクターは得意な方だったんですけど、さらにそこに磨きがかけられたことも収穫でした」

速さはあった。だが、安定して勝ち切るには、まだ足りないものがあった。
だからこそ、2026年に向けて必要なものは明確だ。

「あと一歩を埋めるには、経験値しかないなと思っています。場数をこなしていくしかないですし、日々のトレーニングやシミュレーターの蓄積も、その経験値のひとつになると思います。とにかくたくさん乗ることが、安定にもつながってくると思っています」


強い相手の中で勝つことに意味がある




2025年を振り返り、斎藤選手は「手に入りそうで入らないシーズンだった」と表現する。

「本当に何かきっかけをつかんだら、そのままチャンピオンも取れるくらいの勢いはつくと思うんですけど、そこをつかみきれなかったのが昨年のシーズンだったかなと感じます」

では、2026年の目標はどこにあるのか。

答えは迷いなく、チャンピオンだ。

「みんな同じことを言うと思うんですけど、チャンピオンしかないと思っています。チャンピオンを取るためには、もちろん努力しないと簡単には取れませんし、今年は強豪もたくさんいるので、やるべきことをやらないと取れないのは重々承知しています。それでも、全戦優勝、チャンピオンを取り返すというくらい、目標は高く持っています」

2026年のKYOJO CUPには、経験豊富な三浦 愛選手、F1 Academyを経験したジョアンヌ・チコンテ選手、Williams Driver Academyの一員である若手ドライバーなど、強力な顔ぶれが揃う。

ライバルが増えることについて、斎藤選手は「怖い存在」としながらも、それを歓迎している。

「強い人の中で勝つことに意味があると思いますし、自分の価値も上がると思うので、そこは大歓迎です」

強い相手がいるからこそ、勝利の価値は高まる。
その環境の中で、もう一度頂点を取り返す。斎藤選手の2026年は、その強い覚悟から始まる。


着実に速くなる。石橋を叩いて渡る強さ




斎藤選手の強みは、ただ一発の速さだけではない。

本人が挙げるのは、「頭が使えるところ」だ。

「いろんな方面のことを気にしながら、それを走りにつなげられるところが強みだと思っています。なぜ速かったのか、他の人がなぜ速いのかを研究する能力は、わりと優れている方かなと思います」

感覚だけで走るのではなく、速さの理由を分解し、自分の中に落とし込む。
斎藤選手は、自分を「パッと速く走れるタイプではない」と分析する。

「私はどちらかというと、一発屋というよりは、なぜ速いのかを噛み砕いて自分の中に落とし込むタイプです。着実に速くなるタイプですね。上下をあまりしないところは、自分の強みかなと思います」

その性格は、普段の自分にも通じるという。

「石橋を叩いて渡るタイプですね」

派手な言葉よりも、積み上げること。
一瞬の勢いよりも、理由を持って速くなること。

2024年の圧倒的な強さも、2025年のフォーミュラ初年度で見せた速さも、そうした斎藤選手らしい着実さの先にあったものだ。だからこそ、彼女が言う「経験値」は単なる場数ではない。走るたびに得た情報を整理し、理解し、自分の力に変えていくための時間なのだ。


チームに返せるものは、結果しかない



2026年、斎藤選手はTOM’Sの一員として新たな体制でシーズンに臨む。


昨年とはスタッフも体制も変わった。それでも、チームに対する思いは変わらない。

「誰とやっても変わらないのは、同じところを一緒に目指す仲間だということです」

レースはドライバーひとりで戦うものではない。マシンにトラブルが出れば、メカニックやエンジニアが時間を削って対応してくれる。自分のために動いてくれる人たちの姿を見るたびに、斎藤選手は強く思う。

「この人たちのために、私は速く走らないといけない。私ができることは、結果でお返しすることしかないので、エンジニアさんやメカニックさん、代表の皆さん、全員に笑顔になってほしいなという気持ちでいつも走っています」

過去記事でも、2024年のチャンピオンはチームや周囲の支えがあって獲れたものだと語っていた斎藤選手。最終戦では、三浦 愛監督やサポートしてくれたチームのために走る気持ちが大きかったとも振り返っている。

2026年も、その思いは変わらない。

チームのために走る。
支えてくれる人たちに、結果で返す。

それは斎藤選手にとって、レースをするうえでの大きな原動力になっている。


KYOJO CUPは、夢が詰まっている場所




斎藤選手にとって、KYOJO CUPとはどんな場所なのか。

その答えが、とても印象的だった。

「KYOJO CUPは、夢が詰まっている場所だと思っています」

女性ドライバーが、プロドライバーとして、女性だけのシリーズで戦う。かつては難しかったことが、少しずつ現実になろうとしている。斎藤選手は、KYOJO CUPが女子プロゴルフや女子ボートレースのように、女性が職業としてモータースポーツに向き合える場所になりつつあると感じている。

「職業としてやっていける夢が詰まっている場所だと思います」

さらに、女性ドライバーだけのシリーズだからこそ広げられる可能性にも目を向ける。

「男性ドライバーとはあまり縁のない企業さんが、もっとスポンサーについてくれたらいいなというのはずっと思っています」

美容、コンディショニング、リカバリー、寝具、コスメ。
レースの現場で汗をかき、ヘルメットをかぶり、過酷な環境で戦う女性ドライバーだからこそ、伝えられる価値がある。斎藤選手は、女性ドライバーには男性ドライバーとは違う細やかな発信力があるとも語る。

「女性の強みって、男性ドライバーよりも宣伝能力が長けているというか、そういうところには気が回ると思っています」

2026年、KYOJO CUPのレベルは確実に上がる。
速さを追い求めるドライバーたちの技術、バトル、そして成長を見てほしい。斎藤選手はそう語る。

「もちろん可愛いところも見てほしいですけど、一番はドライバーとしての技術やバトルを見てほしいです。みんながこんなに成長したんだ、というところを一緒に見守ってほしいです」

最後に、自分らしく生きるために大切にしていることを尋ねると、斎藤選手はこう答えた。

「常に笑顔を忘れないこと」

その言葉は、斎藤選手というドライバーをよく表している。

サーキットで見せる明るい笑顔は、彼女の大きな魅力のひとつだ。けれど、それは単なる柔らかさだけではない。悔しさも、プレッシャーも、勝ちたい気持ちも抱えながら、それでも前を向いて戦う強さが、その笑顔にはある。

着実に積み上げる強さ。
仲間に結果で返したいという思い。
そして、夢の詰まった場所で、もう一度チャンピオンを取り返す覚悟。

笑顔の奥にある確かな勝負心を胸に、斎藤愛未選手の2026年は、勝ち切るための経験値を積み重ねる一年になる。