彼女の素顔

INTERVIEW

Vol.9

Kokoro Sato

トンネルの向こうはフォーミュラだった。
やるべきことが見えた今、もっと速くなれる

Kokoro Sato

憧れのフォーミュラで味わった、初めての感情


2025年、佐藤こころ選手はKYOJO CUPでフォーミュラマシンに乗り、1年を戦った。


振り返ってどんなシーズンだったか。そう尋ねると、返ってきたのは「今まで経験したことのない感情がたくさんあった」という言葉だった。

「楽しいこととか、嬉しいこともありました。でも、すごい壁にぶち当たって、それをどう越えるのかという葛藤もありました。本当に今まで経験したことのない経験と感情が、いろいろありました」

佐藤選手にとって、フォーミュラはずっと乗りたかったマシン。

4歳からカートを始め、2020年にはJAFジュニアカート選手権FP-Jrクラスで史上初の女性ドライバー優勝を飾った。だが、次のステージとして挑んだKYOJO VITAでは、思うような結果に恵まれなかった。過去のインタビューでは、VITAでのシーズンを「出口の見えないトンネル」のようだったと振り返っている。

それでも、腐らずに努力を続けた。チームからマシンについて学び、シミュレーターの回数も増やし、できることをひとつずつ試していった。その先に訪れたのが、KYOJO CUPのフォーミュラ化だった。

「フォーミュラに乗りたくて、ずっとレースを頑張ってきたので、すごくうれしかったです」

憧れのフォーミュラに初めて乗った時、彼女はカートに近い感覚を思い出したという。走行練習では、ピットレーンを出ていくときにまだアクセルを踏み込める余白を感じ、3周目には全開にできるようになっていた。「あ、これ知っている感覚だ」 そう感じた。


合っている。でも、知れば知るほど難しい





フォーミュラは自分に合っている。
その印象は、1年を戦った今も変わっていない。

ただし、最初に感じた「相性の良さ」は、シーズンを重ねる中で、より複雑なものへと変わっていった。

「やっぱり合ってはいるんです。でも、季節が変わったりすると、走り方もカートとは大きく違ってくる。詳しく知れば知るほど、走り方をアジャストするのが難しいですね」

フォーミュラに乗り始めた当初は、感覚的に「乗れる」部分もあった。だが、走れば走るほど、課題は増えていく。どのタイミングでタイムを出すのか、コンディションにどう合わせるのか、予選でどう一発を決めるのか。細かな要素が、結果に大きく影響することを学んだ。

それでも佐藤選手は、課題が増えることをネガティブには捉えていない。

「最初より課題は増えていっています。でも、それは悪いことじゃなくて、もっと速くなるためのもの。課題がいっぱい増えて、ちょっと頭を抱える時もありますけど、それをクリアしていくのが楽しいです」

課題が見えるということは、改善すれば速くなれるということ。
そう伝えると、佐藤選手ははっきりと言った。

「もっと速くなります」

そのまっすぐな言葉に、彼女の成長への強い意欲がにじむ。


1年目の経験を、2年目の武器に




2025年、佐藤選手はKYOJO CUPの最年少ドライバーとして注目を集めた。
2026年は、同じフォーミュラマシンで2年目を迎える。新たな若手ドライバーや海外勢も加わる中で、どう戦っていくのか。

「去年1年を通して、良かったところもあれば、反省するところ、改善するところもたくさん見えました。2年目は、その1年目の経験を活かして、練習に取り組んだり、家でもトレーニングしたり、いろいろなデータもあるので、そこを武器に頑張りたいです」

何もない状態で挑んだ1年目とは違う。
今の佐藤選手には、実際に1年間戦った経験があり、データがあり、明確な課題がある。

成長を感じる部分もある。特に大きく変わったのは、レースに向かう時のメンタルだ。

「緊張を全然しなくなったというか。もちろん程よい緊張は大事ですけど、コックピットに乗り込んだら消えるとか、ヘルメットを被ったら消えるとか。レース当日になったら、勝手に切り替わるようになってきました」

考え方も変わった。
ただタイムを出すのではなく、どのタイミングでタイムを出すのか。1周をどう組み立てるのか。そうした細かな部分に意識が向くようになった。

その背景には、チームの存在がある。

「トップカテゴリーで生き残っているドライバーは、みんな最初で一発を出せるドライバー。逆に、その力をつけないと生き残るのが難しいと言われて、確かに、とすごく納得しました。そこに向けて今、とても頑張っています」


見てほしいのは、冷静でアグレッシブなバトル




佐藤選手が今年、ファンに見てほしいもの。
それは、バトルだ。

「自分はバトルをするのが好きなので、冷静でありつつ、アグレッシブなバトルを見てほしいです」

この言葉は、佐藤選手らしい。
ただ攻めるだけではない。冷静さを失わず、それでも前に出る。その両方を持った走りを見せたいという。

KYOJO CUPについて尋ねると、彼女は「女性ドライバーとしてすごくいい環境」と表現した。

「一人ひとりにスポットを当てる機会を作ってもらえて、そこでちゃんと活躍したら、それに合ったプラスなことが与えられる。女性ドライバーとして、すごく一番いい環境だなと思います」

かつて、佐藤選手は支えてくれる家族やスポンサー、声をかけてくれた関係者に「早く結果で返したい」と語っていた。フォーミュラ初年度からトップ争いを狙いたいという意欲も、当時からはっきりしていた。

その思いは、2年目を迎える今も変わらない。
むしろ、1年目で得た課題と経験がある分、今年はより具体的に、自分がやるべきことを見据えている。

与えられた環境で、最後まで頑張れば誰かが見てくれている

これからレーシングドライバーを目指す子どもたちへ、メッセージを送るなら。
そう尋ねると、佐藤選手は自分自身の経験を重ねながら答えた。

「私も正直、フォーミュラまで乗れると思っていませんでした。金銭的な問題もあって、カートでやめるくらいのつもりでした。でも、とりあえず今与えられた環境で必死に頑張って、最後まで諦めずに走ったら、自分が知らないところで見てくれている人がいると思います」

その言葉には、重みがある。

VITAで苦しんだ時期があった。
それでも努力を続けた。
そして、フォーミュラに乗るチャンスをつかんだ。

だからこそ、彼女は「今いる環境で頑張ること」の大切さを知っている。

将来どんなドライバーになりたいか。
佐藤選手は、どんなチャンスにも適応できるドライバーになりたいと語る。

「これから急にチャンスを与えてもらった時に、練習がなくてもちゃんと適応していきたいです。与えられた環境の中で最大限の結果、結果だけではなくパフォーマンスを出したい。もらった環境は、全部全力で頑張りたいです」

課題が増えるほど、もっと速くなれる。
与えられた環境を、成長のチャンスに変えていく。
冷静でアグレッシブな走りを武器に、佐藤こころ選手はフォーミュラ2年目のシーズンへ向かう。