彼女の素顔

INTERVIEW

Vol.10

Rio Shimono

KYOJO FORMULA初代チャンピオンとして。
連覇へ向けて見せたい「ぶっちぎりの強さ」

Rio Shimono

「ほぼ完璧」だった2025年。それでも、まだ100点ではない




下野璃央選手の強さは、突然現れたものではない。

2022年からFIA-F4を主戦場にし、男性ドライバーたちと同じフィールドで経験を重ねてきた。2024年のKYOJO CUPではVITAでランキング3位。ポールポジションからトップチェッカーを受けながら、車両規定違反により正式結果で失格となる悔しさも味わった。だからこそ、KYOJO CUPがフォーミュラ化された2025年は、彼女にとって自分の経験値を証明するシーズンでもあった。

かくして、下野選手は圧倒的な強さでそのシーズンを制し、KYOJO CUPフォーミュラ初代チャンピオンに輝いた。

圧倒的な速さと安定感でタイトルを獲得した一年を、本人はどう振り返るのか。返ってきた言葉は、実に下野選手らしいものだった。

「ほぼ完璧。90点ぐらいです」

残りの10点は、第2大会での取りこぼしだという。

「それさえなければ、100点のシーズンだったと思います」

チャンピオンを獲ったことで、何か大きく変わったことはあるのか。そう尋ねると、下野選手はあくまで淡々と答える。

「チャンピオンを獲ったからといって、大きく変わったことはないです。ただ、KYOJO CUPのフォーミュラ初代チャンピオンという肩書はついたので、それはけっこう言われます」

結果に浮かれすぎることもなく、必要以上に自分を大きく見せることもない。けれど、その言葉の奥には、自分の強さへの確かな手応えがある。2026年、下野選手は“追われる立場”として、新たなシーズンを迎える。


守るのではなく、新しい気持ちでまた獲りにいく




前年チャンピオンとして迎える2026年。もちろん、周囲から見れば下野選手はタイトルを守る立場だ。だが本人の意識は、少し違う。

「去年チャンピオンで、守る立場ではあるんですけど、三浦 愛選手のような強敵も現れたので、昨シーズンの開幕時と同じような気持ちで、新しい気持ちでまたチャンピオンを獲るぞという意気込みです」

今季のKYOJO CUPには、経験豊富な三浦 愛選手、F1 Academyを経験したジョアンヌ・チコンテ選手、Williams Driver Academyのメンバーである若き才能・松井沙麗選手ら、強力な顔ぶれが揃う。新しいライバルの登場を、下野選手はどう受け止めているのか。

「面白そうだなというのはあります」

その一方で、簡単に王座を明け渡すつもりはない。

「どれぐらいまで速くなってくるのかは分からないですけど、当分は敵じゃないかなと思います。最初のうちで注視すべきは、翁長選手と三浦選手あたりですかね」

強気にも聞こえる言葉だが、そこには昨年自らの速さでシリーズを制したチャンピオンとしての自負がある。守るのではなく、もう一度獲りにいく。下野選手の2026年は、その姿勢から始まる。


“女性版星野一義”と称されるスキルと勝負勘




自分自身を客観的に見ると、今はどの位置にいると思うか。富士山にたとえるなら何合目か。そう聞くと、下野選手は少し考えてから「7合目ぐらい」と答えた。

すでにKYOJO CUPフォーミュラ初代チャンピオンであり、他カテゴリーでも速さを見せてきたドライバーだ。それでも本人の中では、まだ頂上ではない。

「フォーミュラでも、上まで行けるところまで上がっていきたいです。女子の中では一番というイメージをもっとつけたいし、最終的にはスーパーGTを目標にしています」

自分の強みについては、迷いなくこう語る。

「本番に強いし、緊張はするけど、始まっちゃえば集中できる。走りもメンタルも安定していると思います」

その安定感こそ、下野選手の大きな武器だ。速さだけでなく、勝負どころで力を発揮できること。緊張を感じながらも、走り始めれば集中できること。2025年のタイトルは、その強さを証明するものでもあった。

とはいえ、レースはひとりで戦うものではない。チームとともに勝ち取ったチャンピオンだからこそ、喜びもまた共有される。

「みんなで勝ち取った優勝です。チャンピオンなので、みんなも私と同じぐらい喜んでくれる。みんなでやっている、みんなで勝ち取ったという感じです」

忘れられない瞬間は、やはりチャンピオンが決まった時だという。そして、心に残っている言葉もある。

「(総監督の)星野一樹さんがSNSで“女版星野一義”って書いてくださるんです。それはよく心に残っています」

圧倒的な速さ、強い勝負勘、そしてチームの力。下野選手の強さは、ただタイムだけで語れるものではない。


新しいスポンサー、新しいファンがKYOJOを広げていく




KYOJO CUPがさらに広がっていくために、何が必要だと考えるか。下野選手は、女性ドライバーが活躍する環境について、スポンサーやメディア露出の広がりにも目を向けている。

「ReFaが参戦してきたじゃないですか。ReFaって、女の子がみんな知っている美容のブランドですし、そういうところがスポンサーになれば、もっとモータースポーツって広がると思います」

モータースポーツにこれまで触れてこなかった人たちにも、KYOJO CUPを知ってもらうきっかけが生まれる。女性誌、美容業界、ライフスタイル領域。従来のモータースポーツとは少し違う世界との接点が増えることで、シリーズの可能性も広がっていく。

そして2026年のKYOJO CUPには、ジョアンヌ・チコンテ選手、松井沙麗選手、三浦 愛選手など、新たなライバルが加わる。ファンにどんなところを見てほしいかと尋ねると、下野選手は迷わずこう言った。

「もっと私がぶっちぎるところを見せたいです」

さらに続ける。

「たまにはバトルして勝つところも見せたいですね。やっぱり圧倒的なのが一番かっこいいと思います」

その言葉は、チャンピオンとしての自信そのものだ。強い相手が増えるからこそ、そこで圧倒して勝つ。その姿を見せることが、下野選手にとって2026年の大きなテーマになる。


海外で得た刺激と、これから目指す場所




下野選手は日本だけでなく、海外レースにも挑戦している。ドバイでの24時間レースでは、日本のレースとは異なる激しさを体験した。

「24時間レースも初めてでしたし、遅いクルマと一緒に走るのも初めてでした。道じゃないところから抜いてくるから、すごく怖かったです」

路面の変化にも驚いたという。

「練習の時と予選の時で3、4秒タイムが上がるぐらい、路面ができていく感じがありました。日本ではあまり体験できないことだと思いました」

さらに、チームとのやり取りにも学びがあった。

「すごくプロのチームだなと思いました。毎日、走行が終わったらエンジニアとドライバーが集まって、ミーティングをしたり、簡単なレポートを毎日出したり。プロのレースだなと思いました」

その経験を経て、海外のレースにも「また出たい」と感じたという。

最後に、これからドライバーを目指す若い人たちへのメッセージを聞くと、下野選手は少し考えながら、率直に言葉を選んだ。

「簡単な世界ではないです。でも、結果が出た時とか、タイムが出た時の楽しさを体験してほしいです。楽しいです、とにかく」

そして、自分らしく生きるために大切にしていることを尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「無理をしないことと、嫌なことはやらないで、寝たい時は寝ることです」

圧倒的な速さを持ちながら、どこか自然体。
チャンピオンでありながら、まだ上を見ている。

2026年、下野璃央選手が目指すのは、ただ王座を守ることではない。
KYOJO CUPの初代フォーミュラチャンピオンとして、さらに強く、さらに圧倒的な姿を見せることだ。