中国のカートから、日本のKYOJO CUPへ
「もっと早く成長するため」に選んだ場所

中国から日本へ。エミリーことジャオ ユンチェン選手は、KYOJO CUPでフォーミュラに挑むため、海を渡ってきた。
中国でカートを始め、2024年には中国で開催されたカートレースで全国チャンピオンに輝いた。日本のカートレースにも積極的に参戦し、瑞浪やAPGで経験を重ねてきた。2024年を「日本遠征の年と言っても過言ではない一年」と振り返り、日本の選手たちのレベルの高さにも刺激を受けた。
そんなエミリー選手が、2026年のKYOJO CUPに向けて考えていることは明確だ。
「今年は、自分自身をもっと成長させたいと思っています。KYOJO CUPに参戦できることはうれしいですし、レースを楽しみながら、素晴らしいドライバーたちから学びたいです」
中国でカートを続けてきた彼女が、日本でフォーミュラに挑戦する理由は何か。そこには、KYOJO CUPというシリーズへの信頼がある。
「中国でカートをしていた時、もっと多くのことを学びたいと思っていました。KYOJO CUPはとても素晴らしいレースだと思いますし、日本で学べば、もっと早く成長できると思いました。だからKYOJO CUPを選びました」
中国のモータースポーツ人気は、いまとても高まりつつあるという。上海インターナショナル・サーキットをはじめ、練習用のサーキットや中国F4が開催される環境もあり、若い世代がモータースポーツに触れる機会は増えている。
その中でエミリー選手は、日本という新しい環境を選んだ。
より速く、より確かに、自分を成長させるために。
フォーミュラで最初に越えたいもの
スピードへの怖さと、カート時代の癖

カートからフォーミュラへ。
そのステップアップは、エミリー選手にとって大きな挑戦だ。
フォーミュラマシンで一番難しいことを尋ねると、彼女はまず、カートとはスピードが違うことを挙げた。
「フォーミュラカーとカートでは、スピードに違いがあります。まずは、自分の中にある怖さを克服したいです」
速さへの怖さを認めること。
それは弱さではない。新しいマシンに向き合ううえで、彼女が最初に越えなければならない壁だ。
もうひとつの課題は、カート時代に身についた感覚を、フォーミュラに合わせて変えていくことだ。
「カートで身につけた技術の中には、KYOJO CUPのマシンの走らせ方とは違うものもあります。自分の中にあるミスや癖を、これから少しずつなくしていきたいです」
フォーミュラに乗るには、これまでの経験をそのまま使うだけでは足りない。カートで培ったものを土台にしながら、不要なミスを減らし、新しい乗り方を覚えていく必要がある。
一方で、エミリー選手はKYOJO CUPで学べることに前向きだ。周囲には、経験豊富で優れたドライバーたちがいる。その存在が、彼女に刺激を与えている。
「KYOJO CUPでは、他のドライバーから学ぶことがたくさんあります。それがモチベーションになっています」
怖さを越え、ミスを減らし、学び続ける。
エミリー選手のフォーミュラ挑戦は、そこから始まっている。
富士は美しく、難しい
ルーキードライバーを鍛える高難度コース

エミリー選手にとって、富士スピードウェイは特別な場所になりつつある。
「富士はとても美しいコースだと思います」
一方で、ルーキードライバーにとって富士は決して簡単なコースではない。長いストレート、高速コーナー、中速コーナー。正しいラインを見つけ、安定して走るには、多くの経験が必要になる。
「富士は、ルーキードライバーにとってはとても難しいコース。高速コーナーも中速コーナーも難しいです」
それでも、エミリー選手は富士で走る経験を前向きに受け止めている。日本でカートレースを経験し、富士でフォーミュラに挑む。そのひとつひとつが、彼女の成長につながっている。
日本でのレースで印象に残っていることを聞くと、彼女はカート時代の経験を振り返った。
「2024年に日本へ来て、瑞浪などのカートコースで走りました。その経験が、スピードやレーススキル、競争の中での技術を高めることに役立ったと思います」
高校最後の一年、勉強も大切に
レースが教えてくれる、困難との向き合い方

エミリー選手にとって、2026年は高校生活の最後の一年でもある。
オフシーズンをどう過ごしたのか尋ねると、返ってきた答えはトレーニングやシミュレーターではなく、勉強だった。
「今年は高校最後の年なので、大学に進むためにもっと勉強しなければなりません」
中国では受験競争が厳しく、中学時代には勉強のために一度レースから離れた時期もあった。高校に入ってから、両親に「またレースがしたい」と伝え、学業とレースを両立してきた。
エミリー選手にとって、勉強とレースは別々のものではない。どちらも、自分の人生を前に進めるために大切なものだ。
自分らしく生きるために大切にしていることを尋ねても、彼女は「勉強は大切」と話す。そして、こう続けた。
「勉強が難しくて不安になる時、モータースポーツは私をリラックスさせてくれます。そして、人生で難しいことにどう向き合えばいいかを教えてくれます」
レースは、ただ速く走るためのものではない。
不安を感じた時に、自分を支えてくれるもの。
難しいことに向き合う力を教えてくれるもの。
エミリー選手にとってモータースポーツは、学びのもうひとつの形でもある。
セッションごとに、少しずつ前へ
家族の支えとともに目指す「今より良い自分」

自分の強みは何か。そう聞かれると、エミリー選手は少し戸惑いながら、率直に言った。
「実は、私はあまり自分に自信がある方ではありません」
だが、彼女には大切にしていることがある。
一度に大きく変わることではなく、セッションごとに少しずつ改善していくことだ。
「フリー走行や公式練習で、セッションごとに少しずつ良くなっていけると、とても満足できます」
走行中は遅いと感じることもある。うまくいかなかったと思うこともある。だが、映像を見返し、どこを直せばよいか分かった時、彼女はうれしさを感じる。
「走っている時は遅いと感じても、ビデオを見て、どう改善すればいいか分かった時はとてもうれしいです」
その積み重ねこそが、エミリー選手の成長の形だ。
そして、彼女を支えているのは家族の存在でもある。
「両親や家族が支えてくれていることに感謝しています。レースがある時は、母や父が来て見守ってくれます。私が落ち込んだ時も、いつも支えて、励ましてくれます」
まだ自信は十分ではない。
怖さもある。課題もある。
それでも、学びたいという気持ちは強い。
中国から日本へ渡ってきた18歳の挑戦。
今より少しでも良い自分になるために、彼女は日々学び、成長していく。
エミリー選手は、富士のコースでまた新しい一歩を踏み出す。