速さはある。だからこそ、自信を持って走りたい

2025年、競争環境も求められるドライビングも変わった新しいKYOJO CUPで、ハナ・バートンは新たな挑戦に臨んだ。
開幕戦では予選2番手タイムを記録。第2戦でも3番グリッドを獲得した。速さの片鱗は、すでに見せている。
しかし本人は、その手応えだけでシーズンを語ろうとはしない。
「結構、カオスが多いシーズンでした」
そう言って、ハナは少し笑った。
「でも、アップダウンがあって、ダウンの時にすごく勉強になりました。初めての年にそういう経験ができて、よかったと思っています」
新しいフォーミュラカーでのシーズン。速さを見せた一方で、思うように結果へつなげられなかった場面もあった。だが、ハナにとってそれは失敗ではない。むしろ、早い段階で自分に必要なものを知ることができた経験だった。
「一回で成長したというより、一戦一戦、少しずつ学ぶことが多かったです。まだレース経験が短いので、勉強するところはたくさんあります」
その言葉には、過信も悲観もない。自分の現在地を受け止めながら、次に進もうとする冷静さがある。
“隠れたインダストリー”を、世界へ開くために

ハナにとって、KYOJO CUPは単なる国内レースではない。アメリカで育ち、日本でレースキャリアを築いている彼女の目には、このシリーズが日本のモータースポーツの可能性を世界へ開く存在として映っている。
「海外の人は、日本のモータースポーツは結構“隠れたインダストリー”だと思っているように感じています」
ヨーロッパやアメリカのレースに比べ、日本やアジアのモータースポーツはまだ十分に知られていない。だが、だからこそKYOJO CUPには可能性があるとハナは考えている。
「KYOJOは世界のみんなが触れられるシリーズになれると思う」
女性だけのレースシリーズは世界にも存在する。しかし、日本でKYOJO CUPに参戦することに、特別な意味があった。
「アメリカには、こういうきっかけがあまりありませんでした。日本はチャンスが多いと思います。同じレベルのところで挑戦できるチャンスが多い。アメリカだと、全部がすごくビジネスとして見られている感じがあります。でも日本では、トヨタやホンダのようにサポートする会社も多い。チャンスが多いと思います」
そのチャンスを、ハナは自分の手でつかもうとしている。
大切なのは、順番じゃない。

一方で、フォーミュラカーへの適応は簡単ではなかった。初めて乗った時の印象を聞くと、率直に振り返る。
「目線も、音も、振動も全部変わりました。最初は情報が多すぎる感じでした」
ハナは、カート経験が豊富なドライバーではない。だからこそ、VITAで身につけた感覚と、フォーミュラで求められる走らせ方の違いに戸惑いもあった。
「VITAは少しリアをスライドさせて走るイメージがありました。でもフォーミュラは、リアのグリップをちゃんとつけて走らないといけないクルマ。そこが難しいです」
慣れてきたかと聞かれても、彼女は簡単には頷かない。
「まだまだ理解していないところが多いです」
その正直さが、いまのハナらしさでもある。速さを見せても、自分はまだ完成していない。だからこそ、もっと走り、もっと学ぼうとしている。
今シーズンの目標についても、彼女は順位だけを口にしなかった。
「順番はあまり見ていません。自分が頑張れるところを全力でやりきったら、結果はあとから来ると思っています。100パーセントの自分を出して、ちゃんと準備して走りたいです」
迷いを消すために、走り続ける

100パーセントの自分を出すために、オフの間もハナは走り続けてきた。ROTAXのカート、シミュレータートレーニング、フィジカルトレーニング、VITAでのレース、そしてスーパー耐久シリーズの富士24時間レース。言葉通り、たくさんの時間を“走る”ために費やしている。
それは、単に経験値を増やすためだけではない。ハナがいま一番手に入れたいものは、ひとつ。
「自信があるドライバーになりたいです」
そう言ったあと、彼女は少し言葉を探した。
「一番ダメなところは、不安が多いところ。何が合っているかわからないとか、自分はそんなに速くないんじゃないかとか、そういう気持ちが走りに出てしまう。だから、本当に自信を持って、ちゃんと準備をしてきたドライバーになりたいです」
速さはある。だが、その速さを信じ切ることができなければ、レースでは結果につながらない。ハナはその課題を、誰よりも自分自身で理解している。
自分が迷ったから、誰かの入口をつくる

そして、彼女の挑戦は自身のレース活動だけにとどまらない。ハナは、子ども向けのコミック制作などを通じてモータースポーツの入口を広げる「Circuit Orange」というプロジェクトにも取り組んでいる。モータースポーツに興味がありながら、どう始めればいいかわからない人たちのために、レースの世界への入口を作ろうとしているのだ。
「私自身、モータースポーツに入るまで、どうやって入ればいいのか本当にわからなかったんです。だから、夢を追いかけたい人たちが、その夢に近づけるようにしたくて始めました」
Circuit Orangeのコミックは、モータースポーツを知らない人にとって学びの入口になる。さらに、海外から日本でレースをしたい人に向けて、ライセンスの取得方法や走り方を教えるチームの活動にもつなげている。
「海外の人たちが日本でレースをやりたいと思った時に、チームの入り方や、ライセンスの取り方、走り方まで、全部教えられるようにしたいんです」
自分が迷ったからこそ、次に続く人には迷わず進める道を作りたい。ハナの活動には、そんな思いがある。
ほんの少しでも、毎日前に進む。夢に近づくために

KYOJO CUPの魅力を聞くと、彼女はこう答えた。
「みんなライバルなのに、すごく仲が良い。それぞれがレベルアップできるように動いている。そういう姿も見てもらいたいです」
レースである以上、コース上では全員がライバルだ。それでも、女性ドライバーたちが互いに刺激を与え合い、学び合い、カテゴリー全体を押し上げていく空気がKYOJO CUPにはある。ハナは、その空気を世界にも伝えたいと考えている。
最後に、同じように夢を追う若い世代へ向けてメッセージを求めると、ハナは英語で力強く語った。
「もし目標があるなら、毎日それを追い続けなければいけない。ほんの少しでも、毎日前に進めば、少しずつ夢に近づいていける。本当に何かを望んでいるなら、それは不可能ではありません」
そして日本語で、こう続けた。
「本当に夢があるなら、自分の生活も、まわりのことも、全部その方向へ向けていかないといけない」
KYOJO CUPで走ること。フォーミュラに挑むこと。Circuit Orangeを通じて、次の世代の道を作ること。
ハナ・バートンの挑戦は、ひとつのレース結果だけでは語れない。
速さを見せながらも、自信を探し続ける。自分の夢を追いながら、誰かの夢の入口も作ろうとする。
「自分らしく生きるために、夢を全力で追いかけています」
ハナが語ったその言葉は、彼女自身の生き方そのものだ。
KYOJO CUPという舞台で、ハナ・バートンはいま、自分の走りを信じるための挑戦を続けている。