彼女の素顔

INTERVIEW

Vol.19

Kelsey Pinkowski

開いた扉の先で、もっと強くなる。
NYから日本へ、KYOJOで築くプロへの土台

Kelsey Pinkowski

何もわからなかった一年目から、自信を持てる二年目へ




ニューヨーク州バッファローからKYOJO CUPに挑戦するケルシー・ピンコウスキー。

その場の空気を明るくするような笑顔と、まっすぐな言葉が印象的な22歳の大学生レーサー。彼女にとって、2025年はすべてが新しい一年だった。

日本でレースをすること。富士スピードウェイを走ること。女性だけのフォーミュラカーレースに参戦すること。そして、KYOJO CUPという新しい環境の中で、自分の現在地を知ること。

その一年を経て、2026年シーズンを前にしたケルシー選手の表情には、昨年とは違う落ち着きがある。

「今はかなり自信があります。去年は、自分が何に飛び込もうとしているのか、本当に何もわからない状態で始まりました。でも今年は、少しリフレッシュした気持ちで戻ってくることができています。自分に何が求められているのか、誰から何を学ぶべきなのかも、少しずつ理解できるようになりました」

何も知らないまま飛び込んだ一年目。そこから経験を重ね、チームや周囲のドライバーたちから学び、少しずつ自分の立ち位置をつかんできた。

「去年よりも準備ができています。だから、より自信があります」

2026年の目標は、結果だけではない。もちろんドライバーとして速くなることは大切だ。しかしケルシー選手は、自分自身の成長も同じように大切にしている。

「今年の大きな目標のひとつは、ドライバーとして成長し続けることです。でも同時に、ひとりの人間としても成長したい。誰からでも、できるだけ多くのことを学びたいと思っています」


競い合う仲間から、学びを受け取る




KYOJO CUPでの経験を振り返ると、ケルシー選手が成長を感じているのは、レースクラフトだけではない。

「もちろんレースクラフトの部分では成長したと思います。でも、それだけではなく、ほかのドライバーたちとたくさん関わって、彼女たちから学べたことも大きかったです」

KYOJO CUPには、年齢もキャリアも国籍も異なるドライバーたちが集まっている。コース上ではライバルでありながら、パドックでは互いに刺激を与え合い、学び合う空気がある。

「彼女たちがこの一年で学んできたことを受け取って、それを自分にどう生かせるのかを考えることができました。走行時間やシートタイムだけではなく、ほかのドライバーやチームから学べることも、KYOJO CUPの大きなメリットだと思います」

KYOJO CUPの競争レベルについて聞くと、ケルシー選手は迷わず「とてもプロフェッショナル」と表現した。

「本当にプロフェッショナルです。ここにいるみんなが、自分たちが何をしているのかをよく理解しています。そして、みんなが互いから学んでいる。KYOJO CUPには、すでにとても良い、プロフェッショナルなプラットフォームがあります」

そのプラットフォームの中で、ケルシー選手は自分の経験値をひとつずつ積み上げている。


遠く離れた富士を、シミュレーターで走り続ける




フォーミュラカーで戦ううえで、ケルシー選手が最も大きな課題として挙げたのは、マシンそのものではなかった。

「私はアメリカ出身なので、一番大きなチャレンジは時差です」

そう言って、彼女は少し笑った。

日本に住んでいないため、富士を走れる時間は限られている。その分をシミュレーターで補い、オフシーズンには毎日1〜2時間、富士のラインを確認し続けた。

「シミュレーターは、オフシーズンに学ぶための一番の方法になっています」

大学の授業もあるため、実車での走行時間を確保するのは簡単ではない。カートで走る機会も少しはあったが、多くの時間はシミュレーターで補うしかなかった。

遠く離れたアメリカにいても、富士を忘れない。

画面の中で何度もラインを確認し、ブレーキングポイントを探り、次に日本へ来た時のために準備を重ねる。それが、ケルシー選手の二年目へ向けた土台になっている。


KCMGとともに、チームで強くなる




ケルシー選手を支える存在として欠かせないのが、所属するKids com TEAM KCMGだ。チームとともに過ごす時間は、彼女の技術面、精神面の両方を支えてきた。

「どこでアクセルを踏むべきか、どこでブレーキをかけるべきか、いつステアリングを切るべきか。そのすべてを理解するために、チームにはとても助けてもらっています」

富士スピードウェイは、長いストレートと多彩なコーナーを持つサーキットだ。ケルシー選手にとって、チームからのフィードバックは富士を理解するための大きな手がかりだった。

「コースについてだけでなく、周囲との関わり方や、みんなにどう挨拶するかということまで教えてくれました。エンジニアを含め、チームのみんなが本当に素晴らしいです」

速く走るための技術だけではなく、日本のレースの場に溶け込むための振る舞いも学ぶ。
それもまた、アメリカから来たケルシー選手にとって大切な成長の一部だった。

KYOJO CUPで最も印象に残っている瞬間を聞くと、ケルシー選手は少し迷った。

「たくさんあります。本当にたくさんあります」

日本に来るたび、ファンとの出会いがあり、チームとの時間があり、そのたびに違う経験がある。だが、その中でも特に心に残っているのは、昨シーズンの最後だった。

「去年の終わりに、チームがひとつになった瞬間がありました。“私たちにはできる。これが最後のショーだから、いいものにしよう”という雰囲気になったんです」

その瞬間は、ケルシー選手にとって大きな意味を持っていた。

「チームのみんなが互いを支えているということが、自分の中で確かなものになりました。このチームにいられてよかったと思える、とても印象的な瞬間でした」

異国で戦う若いドライバーにとって、自分の居場所だと思えるチームがあることは大きい。

不安な時も、うまくいかない時も、背中を押してくれる人たちがいる。その安心感が、彼女の挑戦を支えている。


ちいかわがつなぐ、日本との距離




ケルシー選手の魅力は、コース上の真剣な表情だけではない。キャラクターの「ちいかわ」について語るとき、彼女は少女のように笑う。

「まだ夢中です。羽田空港にはちいかわグッズのお店があって、日本を出る時はいつも『ちょっと待って、買いに行ってくる!』って父に言うんです」

ファンからちいかわグッズを贈られることもある。

「ファンの皆さんにも本当に感謝しています。いつも小さなちいかわグッズを見つけると、“わあ!”ってなります」

異国でのレース活動は、時に孤独で、時に大きなプレッシャーを伴う。だが、こうした小さな楽しみやファンとのつながりも、彼女が日本で戦う時間を特別なものにしている。


扉が閉じても、また別の扉が開く




長期的な目標を聞くと、レース参戦2年目のケルシー選手は「まだキャリアの初期にいる」と話す。KYOJO CUPは、彼女にとってプロドライバーとしての土台を築く場所でもある。

「KYOJO CUPは、私にとってとても強い土台を作ってくれました。去年、こうした本格的なレース環境で競うことが初めてだった私に、ほかのドライバーたちのプレッシャーと向き合うことを教えてくれました。私にはここにいる理由がある。そう思わせてくれました」

最後に、レーシングドライバーを目指す若い女性たちへのメッセージを聞くと、ケルシー選手は彼女らしい前向きな言葉で答えた。

「その道は少し難しく見えるかもしれません。でも、自分のために進み続けて、戦い続けてほしいです」

チャンスはいつも、わかりやすい形で訪れるとは限らない。目の前に現れた扉を開けるべきか、誰もが迷うことがある。

「いつか扉が開く時があります。その時、自分に問いかけると思います。本当にやるべきなのかな?って。でも、やるしかないんです。最悪でも、その扉が閉じるだけ。でも、また別の扉が開きます」

その言葉は、彼女自身の経験にも重なる。

日本へ行くこと。KYOJO CUPに挑むこと。知らない環境に飛び込むこと。その一つひとつが、ケルシー選手にとって新しい扉だった。

「チャンスはいろいろなところにあります。だから、そのチャンスを生かして、自分が行きたい場所へ向かって進み続けてほしいです」

明るく、前向きで、少しチャーミング。
だがその笑顔の奥には、異国で戦いながら、一歩ずつ自分の居場所を築いてきた強さがある。

開いた扉の先で、もっと強くなるために。
NYから来た22歳の大学生レーサーは、KYOJO CUPという舞台で、プロドライバーへの土台を築き続けている。