カートでは表彰台の常連選手でも
戦績に恵まれなかったKYOJO VITA

2025年、2月。KYOJOに新たに導入されたハイブリッドフォーミュラKC-MG01の走行練習で、佐藤こころ選手(以下、こころ選手)は好タイムを弾き出していた。
「さっきの走行は、トップの選手から0.8秒差の 3番手でした。昨日の午後からセッティングを変えたりして、ようやくちょっとずつ方向性が見えてきた感じがします。」
おっとりと話す関西弁の語尾に、フォーミュラへの手応えがにじみ出る。
こころ選手は17歳の現役高校生。4歳からカートを始め、2020年のJAFジュニアカート選手権FP-Jrクラスで史上初の女性ドライバー優勝を飾った。2023年に限定Aライセンス(限定国内競技運転者許可証)を手に入れ、次のステージに選んだのがKYOJO CUPだった。ところが、初めて操作するVITAを相手に悪戦苦闘。思うような結果を出せないまま、2024年度シーズンが終わった。
「チームが富士スピードウェイでのVITA参戦が初めてで、データ不足というのもあったんですが、私自身のドライビング技術が追いつかなかった。それまで乗っていたカートとVITAの大きな違いは、サスペンションが有るか無いかというのもあって、そのサスペンションの動きがずっと理解しきれなくて。それでも初戦は結構好調やったんです。でも回を重ねるごとに出口の見えないトンネルみたいな、暗闇に入っていった感じですね。」
だが、こころ選手は決して腐ったりしなかった。
「チームの人にマシンについて教えてもらったり、シミュレーターも回数を増やしたりして。できることはなんでもやってみようという気持ちで取り組みました。トータルで見ると結果は伸びなかったですけど、こうした経験も今につながっていくから。」
暗く長いトンネルを抜け出し、
新たなマシンでチャンスを掴む

悩んでも仕方ないことはスパッと切り替え、前を向くのがこころ選手の流儀。そんなとき、2025年からKYOJO CUPにフォーミュラカーが導入されることを知った。
「フォーミュラに行きたいという思いが芽生えつつ、現実問題として資金面で難しいところもあって。そもそもVITAで結果を残せていないし、VITAで再挑戦かなと思っていたとき、KYOJO CUPのオーガナイザーである関谷さんに『フォーミュラで1回走ってみない?』とお声をかけていただきました。私はフォーミュラに乗りたくてずっとレースをがんばってきたので、すごくうれしかったです。」
数値的な結果は明確で誰にとってもわかりやすいが、結果までのプロセスが評価されるケースもある。陰ながらしてきた努力を見ている人も必ずいるものだ。
「年齢的なフィジカル面を買ってもらえたのかもしれないけれど、めちゃくちゃ恵まれていますよね」と、こころ選手も喜びを隠さない。
そうした背景もあり、憧れのフォーミュラに乗り込んだこころ選手は走行練習から水を得た魚だった。
「ピットレーンから出ていくとき、アクセルをまだ1/3ほどしか踏んでいないのに、もっと踏み込める余白を感じたんです。最初は恐るおそるでしたが、気づいたら3周目にはアクセル全開で。乗っているうちにどんどん楽しくなって、『あ、これ知っている感覚だ』と。私はカート競技が長かったんですが、それに近い感覚を思い出したんです。」
好相性なフォーミュラカーを味方に
開幕戦からトップ争いを狙っていく

「VITAのときはどこを改善すれば速くなれるか、対策が全然思いつかなくて。だけど、フォーミュラに乗ってみたら、速い選手と距離やタイムが離されている原因が推測できたんです。まだ3番手タイムなんですけど、課題を克服すればもっと上を狙えるかなって。」
そのためにも練習を重ねたいところだが、F4での練習はVITA以上にコストがかかりチームの負担も大きくなる。
「練習は量より質で。一回の練習の枠でどうやったら速くなるかをたくさん考えて、対策を練っていこうと思います。今、向かっていく方向が見えているので気持ち的に楽ですね。去年、苦労した分、活かせることも多いと思うんです。」
同世代の選手や海外勢が増えたことも、楽しみの一つだ。
「同じチームにタイから来たミニーちゃんがいるので、コミュニケーションを取りながら一緒に高め合えればいいなと思います。いろんな選手と走れるのは刺激になるし、自分の成長につながると思っています。」
インタビュー中、たびたび「声をかけてくださった関谷さんやチームのみなさん、応援してくれている家族に早く結果で返したい」と語った、こころ選手。
「フォーミュラでの初年度、どの選手もイチからじゃないですか。チャンスやと思って、開幕戦から優勝目指してがんばります。」