彼女の素顔

INTERVIEW

Vol.42

Sitarvee Limnantharak

バンコクから参戦した2世レーサー“ミニーちゃん”
初めての富士スピードウェイで上位入賞を目指す

Sitarvee Limnantharak

カートの世界大会ではル・マンを経験
今年は日本でフォーミュラに参戦!


「フォーミュラも富士スピードウェイも今回が初めてで。ハンドルの重さに慣れなくて、ちょっと疲れました。」

そう言って、にっこり微笑むのは通称ミニーちゃんこと、シタルウイ・リムナンタラック選手(以下、ミニー選手)。KYOJO CUP 2025にシーズン参戦するにあたって、タイ・バンコクから合同テストにジョインした。身長150cmと小柄でベビーフェイス。4月に20歳になったばかりだ。

「タイではまだフォーミュラカーがなく、今は6段変速ギアを備えたシフターカートに毎週乗っています。キッズやジュニアのカート人口は日本ほど多くはありません。それでも最近はタイでも人気が出てきたようで、8歳くらいから乗り始める選手も増えています。私は10歳のときにカートを始めました。」

ミニー選手はビギナーの頃から持ち前のセンスを発揮。わずか2年のキャリアで日本にも遠征したというから驚きだ。
「12歳のとき、スポーツランドSUGOで開催されたJAFジュニアカート選手権にスポット参戦しました。出場台数までは覚えていませんが、戦績は8位。タイ国内でエントリーしてきたレースとは雰囲気が異なり、レベルも高くて苦戦しましたが、いい刺激になりました。」

その後ミニー選手は欧州各国に遠征し、海外選手とバトルを繰り広げながらカートの腕を磨いていく。
「イタリア、フランス、ドイツ…、それからフィンランドへも行きました。忘れられないのは、なんと言っても2018年に参戦したIAME X30 CHALLENGEですね。」

父はタイのレース界のレジェンド
最強のDNAを強みに勝負に挑む


IAME X30とは、イタリア・IAME製のエンジンX30を搭載したカートでの無改造ワンメイクレースのこと。開催地はモータースポーツの聖地といわれるル・マンで、ミニー選手はそのX30ジュニアクラスの世界チャンピオン決定戦にタイ代表としてエントリーしたのだ。

「練習走行中、アタックを避けきれず車体がひっくり返ってしまって。メカニックが急いで修理して、なんとか本戦に間に合わせてレースに挑みました。結果、女性ドライバーのベスト賞を獲りました。うれしかったですね。」

わずか13歳で成し遂げた快挙。勝負強さは経験の賜物だが、ミニー選手の場合、そのルーツも注目すべきところだ。
「実は父もレーサーなんです。タイや東南アジアを舞台にレースをやっていました。日本で開催された国際レースにも参戦したことがあったそうです。もっとも私が生まれたときには、すでにフルシーズンは乗っていませんでしたが。」

ミニー選手の父、クリエンクライ・リムナンタラック氏は、知る人ぞ知る伝説のレーサーだ。1978年にシフターカート250ccで初優勝を獲得して以来、様々なシリーズで表彰台に上がってきた。タイにFIA公認サーキットがまだなかった時代、空軍基地の滑走路を活用したレースに参戦するなど、タイのモータースポーツの道を切り開いてきたレジェンドである。1990年に富士スピードウェイで開催された国際ツーリングカー耐久レース インターTECでは、KYOJO CUPオーガナイザーである関谷正徳氏と周回ラップ数を競い合ったこともある。

かつて父がトヨタカローラで走った富士スピードウェイを、35年の時を経て娘がフォーミュラで競い合う。特別なアドバイスがあったのだろうか。
「いや、特にないです(笑)。でも、思いきって参加してこいと応援してくれました。」

上位入賞と大学卒業を目標に掲げ
海外遠征と学業の両立に邁進


KYOJO CUP事務局から打診を受けるまで、日本に女性レーシングドライバーだけで競い合うカテゴリーがあることを知らなかったというミニー選手。
「驚きと同時にとても興味が湧きました。まだ開幕前ですが、テスト走行を重ねるうちトップスピードはそれなりに出せるようになってきました。あとはコーナーをどう攻めていくかが課題です。」

普段はタイの名門・国立チュラロンコン大学で文学を専攻する3年生。日本でいえば東京大学レベルなのだそう。中学、高校はインターナショナルスクールに通っており、英会話も堪能。海外からの参戦者が増えるKYOJO CUPにおいても、コミュニケーションでの不安はない。

「2025年度はKYOJO CUPをメインに、タイ国内では耐久レースにスポット参戦する予定です。自国ではフォーミュラでの走行練習ができないので、筋トレやシミュレーターでカバーしていければ。学生生活と両立しながら、上位入賞を目指して走っていきたいと思います。」