日本に興味を抱き、KYOJO CUP参戦
NYからやってきた大学生レーサー
「数日前に羽田空港に到着して、そのまま直接、富士スピードウェイに向かいました。だから、まだ日本をゆっくり楽しむことはできていないけど、とても美しいところですね! すでにここが気に入っています。」
そう話すのは、ケルシー・ピンコウスキー選手(以下、ケルシー選手)。その場の空気をパッと明るくするようなエネルギーに満ちた、21歳の大学生だ。レースを始めたのは17歳のときのこと。2年前、現在のコーチであるニック氏と出会い、アメリカで開催されるレース以外にも目を向けるようになった。
「今年に入って、ニックから“KYOJO CUPという女性だけで競い合うレースが日本にある”と教えてもらいました。『興味があるかい?』と聞かれ、『もちろん!』と答えました。日本はいつか行ってみたい国だったので、ぜひチャレンジしたいと伝えました。」
好奇心旺盛なケルシー選手は、迷うことなくKYOJO CUPの参戦を決断した。出身地は、カナダとの国境にも近いニューヨーク州バッファロー。
「NY北部出身の女性レーサーはそれほど多くありません。バッファロー、そしてアメリカの代表として、KYOJO CUPに参戦できることを誇りに思っています。」
現地では月に1〜2回、ホームコースで走行練習を重ね、マシンに乗れない時間はシミュレーターで補完。筋力トレーニングのために週4〜5回のジム通いも欠かさないが、遠征がないときは大学でテクノロジーやマネジメントを学び、キャンパスライフもエンジョイしている。
“競争女子”たちに溶け込みながら
富士スピードウェイにアタック
「来日前から何度もYouTubeを見て予習はしてきたんですけど、富士スピードウェイのレーシングコースはとても美しく、とてもワイルド。実際にフォーミュラカーで走ってみると、全体的にとても良いフィーリングを感じました。」
富士スピードウェイは50年以上の歴史を誇り、全日本スーパーフォーミュラ選手権など様々な競技の舞台にもなってきた。名物の1475mにもおよぶメインストレートのほか、高速コーナーから低速コーナーまで多彩なコースレイアウトが特徴だ。天気の良い日には富士山が一望できるのだが、ケルシー選手も気に入った様子だった。
「合同テストでKYOJOのマシンに乗ってみた感想は、今まで乗ってきたフォーミュラと比べてあまり大差はなく、テクニカル的にもすごく難しいという印象はありません。でも、まだ乗り始めたばかりなので、試行錯誤しながら慣れていく必要性を感じています。」
2025年からKYOJO CUPにフォーミュラKC-MG01が導入された。これは2019年にイタリアで開催された、FIAモータースポーツ・ゲームズのF4部門で採用された車両。マシンの話題性に加え、海外からも選手を招聘し、KYOJO CUPはますます注目度が上がっている。
ケルシー選手はKids com TEAM KCMGに所属し、このレースに挑む。
「コミュニケーションを取っていく上で、やはり言葉の壁は大きいですね。日本語を勉強しなければと感じています。シーズンが始まれば来日する機会も増えますから、少しずつ日本語を上達させて、周りに溶け込めるようにしたいですね。KYOJOのみなさんと、仲良くなれることを願っています!」
明るくポジティブな性格を強みに
女性ドライバーのガチンコ勝負に挑む
「17歳で初めてオープンホイールのフォーミュラカーを運転したとき、自分の中で眠っていた才能に気づきました。経験を積み重ねて、将来は有名な女性レーシングドライバーになりたいです。」
ケルシー選手がリスペクトしているのは、アメリカ出身の元レーシングドライバー、リン・セント・ジェームズ選手だ。インディ500をはじめインディカーシリーズで活躍し、45歳でルーキー・オブ・ザ・イヤーを受賞。さらにル・マンやニュルブルクリンクでの24時間耐久レースでも結果を残すなど、モータースポーツ界に名を刻む、女性ドライバーのパイオニア的存在だ。その偉大な先輩を、ケルシー選手はロールモデルに見据える。
ピットに入ると、キリリとした面持ちになり、ルーティーンのイメージトレーニングに集中するケルシー選手だが、素顔は等身大の21歳の女の子。
「日本のSNSマンガから生まれたキャラクターの“ちいかわ”が今のマイブーム! ちいかわとうさぎのグッズを日本で見つけて帰りたいと思っています。」
そう言ってケルシー選手はチャーミングに微笑んだ。明るくポジティブな性格を強みに、KYOJO CUPのステージでも見応えのあるレース展開をしてくれることだろう。