2024年はVITA-01で大躍進
ワンメイクレースの面白さを実感
KYOJO CUPのエントリーは2017年から。山本龍選手(以下、龍選手)は“競争女子”歴9年目のベテランレーサーだ。
「それが実はそうでもなくて。私が車のレースを始めたのは2015年のロードスターカップからなので、キャリア的には10年そこそこなんです。KYOJOメンバーは物心つく前からカートレースに参戦してる選手も多いですから、みなさんの方が先輩みたいな感じです。」
龍選手は穏やかな口調でそう話す。
2024年度のドライバーズランキングは7位。ときにはトップ集団に猛追をかけ、ときにはするりと接近し、熱いバトルを披露した。昨年度は、スーパー耐久シリーズ最終戦と併催されたKYOJO CUPエキシビションで、ドラマティックな2位争いを見せてくれた。
「VITAと富士スピードウェイの組み合わせはとても相性が良くて。1位、2位、3位の順位がくるくる入れ替わったり、サイドバイサイドのレースがガチで頻発したりするんです。富士はメインストレートが長くてスリップストリームが効くので、そうした面白いレースになるんですが、同じVITAの車両なら他のサーキットでも同じような展開が期待できるかと言ったら、必ずしもそうじゃないんですよね。」
昨年は筑波サーキットでのVITAトロフィーレースにもフル参戦した。こちらもVITA-01を使用したワンメイクシリーズだが、KYOJO CUPと異なるのは男女混戦でしのぎを削り合うことだ。
「VITAトロフィーレースシリーズというのは、筑波、もてぎ、袖ヶ浦を転戦するレースなんですけど、昨年はシリーズチャンピオンを獲りました。」
調べてみると、龍選手は筑波での第2・第4戦でポールポジションを獲得し、両戦とも決勝でポール・トゥ・ウィンを決めている。龍選手にとって2024年は、VITA-01での成長を実感する1年だったようだ。
KYOJO CUP歴9年目を迎え
2025年はフォーミュラに挑戦
2025年、KYOJO CUPではフォーミュラマシンが導入され、女性レーサーたちの新時代がスタート。初年度からの参戦ではないが、龍選手はKYOJO CUPの変遷をプレーヤーの一人として見守ってきた。
「“女性ドライバーっているの?”というくらい少数だった頃、女性だけのシリーズをつくることには賛否両論あったと思います。実際、男性と共に競い合うことに醍醐味を感じる女性選手もいたでしょうし、“女性だけ”という点が一見フェアのようで、これまでせっかく男性と肩を並べて一生懸命頑張ってきたのに、結局女性は体力的に男性と同じ土俵では戦えないからこういうシリーズを作ってもらったんだと言われてしまう、とマイナスな捉え方をする選手もいたと思うんです。
それが月日を重ねて少しずつ世の中に認知されるようになってきて。最近ようやく、KYOJO CUPって面白いよね!という流れに変わってきたような気がします。」
フォーミュラでの新生KYOJO CUPは、レーサーを目指す女子たちの新たな道筋に。その点にも、龍選手は明るい希望を見出している。
「小さい頃からカートに打ち込んでも、男の子にはカートの先にF4やF3と次の道が用意されているのに、女の子にはステップアップの先がほとんどなかった。人気が出てきたといってもKYOJO VITAは王道からは少し逸れますから、KYOJO フォーミュラが登場したことで、ようやく女の子たちの階段もつながったのかなと。戦績を出していくことで、やがてSUPER FORMULA LIGHTSやSUPER GTといった先につながっていくのではないでしょうか。」
女性レーサーの新時代を見据え
安心してレースができる環境整備を
TOYOTAやHONDAというビッグネームのサポートのもと、KYOJO CUPはますます注目されるカテゴリーになるだろう。弁護士を生業とする龍選手は、これからはKYOJOの選手たちが法的に守られる仕組みづくりも必要だと一石を投じる。
「ハラスメント問題が騒がれる世の中になり、圧倒的に男性社会のモータースポーツ界も対岸の火事ではありませんよね。チームと交わす契約書一つとっても難しい文言が並んでいて、まだ学生のような若い選手たちが理解しきれていないことも多いと思います。たとえば、保険内容や自己負担金額など、見落としがちな点をまとめたわかりやすいチェックリストや、契約書の雛形を作成するとか。私自身は専門外の分野ですが、起こりうるトラブルが未然に回避できるような道筋を考えていきたいですね。」
優良企業ばかりが選手をスポンサードしてくれるとは限らない。理解しないまま契約書にサインしたことで、契約後に法外な金額を請求されたというケースもあると聞く。
「タレント活動に近いものがありますから、危うい部分はあると思っていて。KYOJO事務局、スポンサー、チームと、選手との間の橋渡しじゃないですが、そうなれればと思っています。」
KYOJO CUPの未来を見据えつつ、自身のポテンシャルに挑み続ける。