彼女の素顔

INTERVIEW

Vol.0

関谷 正徳

シリーズ創設9シーズン目のフォーミュラ革命
世界中の“競争女子”が日本を目指す新時代へ

関谷 正徳

2025年、新生KYOJO CUP誕生
フォーミュラで新たなフェーズへ


合同テストの初日、ピットには腕組みをして走行を静かに見守る関谷正徳氏の姿があった。 関谷氏は、KYOJO CUPを主催しているインタープロトモータースポーツの代表。2017年にKYOJOを立ち上げ、女性レーシングドライバーの価値を“アスリート”として引き上げてきた。そして2025年、KYOJO CUPではハイブリッドフォーミュラを導入し、“競争女子”は新時代を迎えた。 「合同テスト前、一番心配だったのは20台のフォーミュラカーがきちんと走るかどうかでした。クラッシュもありましたし、数台が不調をきたしてバタバタとピットに入ってきました。もちろんマシントラブルは無いに越したことはありません。ですが、シーズンが始まってから出てしまっても困るので、合同練習中に出しきっておくと対策が取れていいんですよ。」 フォーミュラカーは全てKYOJO事務局で一括管理し、公平性を確保。イコールコンディションのもとでレースは行われる。 「これまではVITAでのワンメイクレースでしたが、VITAはパーツなどセットアップに手を加えられるなど、良くも悪くもルールがあいまいでした。そういう点ではKYOJO フォーミュラは全てのマシンが同等です。とはいえ、自動車は1台あたり2~3万個のパーツで構成されていますから、100%イコールにはなりません。それでも限りなくイコールに近づけるため、この手段を取っています。」 エントリーした選手の大半がフォーミュラに初めて乗る。どんな走りを見せてくれるのか、それも楽しみなところだ。 「意外にみんな良く走れているな、という印象です。フォーミュラクラスを運転するとなると、ある程度の体力が要ります。テスト走行で自分に不足している部分が見えてきたら、トレーニングの必要性を含めて課題がわかるでしょう。レーサーはスピードが速い車両に乗るほど、このスポーツの大変さがわかってくるものですから。」

人々の歓声が“競争女子”のエネルギー
モータースポーツが子どもの憧れる世界線に


「長くカーレースは、スーパーカーに乗れば誰でも速く走れるよねと思わせてきた歴史がありました。なぜならレースの主たる目的が、自動車メーカーにとって車の性能を社会にアピールするものだったからです。ですが自動車産業は電動化や自動化がメインとなり、自動車競争をする意義を見つけられないところに来ている。だから運転技術に価値をつけ、それを評価できるということを社会に発信できれば。」 「車」から「人」へと焦点を変え、レースはアスリートが走る技術を競い合うモータースポーツへ。カーマニアだけでなく、幅広い層に周知されていくことも期待される。 「5万人が埋め尽くしたスタンドと誰もいないスタンドでは、放たれるエネルギーが全く違います。当然、ドライバーのモチベーションも変わってくる。たくさんの人々が彼女たちを応援してくれるエネルギーとなったら、“モータースポーツとしてのカーレース”がもっと定着すると思うんです。アスリートが人に夢や感動を与えることがスポーツの魅力ですから、そうした相乗効果がより一層生まれるでしょうね。」 今年度からのTOYOTA、HONDAのバックアップも大きな意味を成す。 「たとえば、賞金1億円も決して夢ではなくなります。そうしたアスリートを取り巻く環境が整っていけば、子どもたちが憧れるでしょう。そして子どもたちの一番のパートナーでスポンサーである親御さんも、モータースポーツに子どもを託してみようと思える。親子であの頂点を目指して大きなマーケットを掴もう、そんな世界線を創るということがめちゃくちゃ大事です。」

モータースポーツで人に感動を与え、
“KYOJO”を世界で通用するワードに

新生KYOJO CUPの初年度は、アジアや欧米からの海外ドライバーも参戦する。KYOJOドライバーたちは世界の選手と肩を並べ、高次元のスピードバトルに挑む。 「私的な考えですが、日本人は世界に対して非常にコンプレックスを抱いてきた民族で、世界ってすごいんだと思い込みすぎている傾向があると感じています。ですが、日本には世界に誇る食文化があり、モノづくりにおいての質の高さも世界中から評価されています。僕はそんな日本から世界を発信したいんですよね。」 「競争女子」をあえて英訳せず“KYOJO”と表現した背景には、関谷氏のそんな想いがあった。 「日本で生まれた女子のためのモータースポーツが、世界中の競争女子が目指す場所になる。KYOJOでそうした環境を創っていくことで、日本が世界になれる。僕はそんな未来を感じています。」